<定例研究会>

民間ヘリコプター運航の現状

神野 正美

(中日本航空株式会社・航空事業本部査察室)

 T 民間ヘリコプター運航の現状

1.航空運送事業と航空機使用事業について

  航空法は私たちの事業を、「航空運送事業」と「航空機使用事業」分けています。後者の航空機使用事業はo航空法第二条19項において「「航空機使用事業」とは、他人の需要に応じ、航空機を使用して有償で旅客又は貨物の運送以外の行為の請負を行う事業をいう。」と定義されています。

 

1-1 航空機使用事業

 代表的な(?)航空機使用事業である農薬散布についてお話します。今や環境変化によって事業の継続すら風前のともし火ではありますが、実例をご紹介します。

 農薬散布は当然のことながら同じところは二度と飛びません、農家が散布を希望した水田に薬剤を撒きます。薬の形態と撒き方によって粉剤(今は環境問題で撒きません)、微粒剤、液剤に分かれ、液剤は散布濃度によってスプレー、少量、微量に分類されます。一部の散布装置はノズルの変更で兼用できますが、基本的にそれぞれの散布方法に応じた装置が必要になります。ほんの一月しかない散布にこのような装置を準備することはまことに効率の悪いことです。

 航空法ではどのような扱いがなされるのでしょうか?

  1. 機体に関しては、それぞれの散布装置ごとの修理改造承認が必要であり、X類の運航になります。X類については後ほどお話します。
  2. 運航に関しては、航空法第二条19項の「航空機使用事業」に該当します。航空機使用事業は非常に多様であり、最もヘリコプターらしい運航かもしれません。
  3. 離着陸に関しては、航空法第七九条(離着陸の場所)において、飛行場以外での離着陸は禁止され、但し書きに従って申請し許可を受けて運航します。
  4. 散布飛行に関しては、航空法第八一条(最低安全高度)の規定により、但し書きに従って申請許可が必要になります。
  5. 散布作業は、航空法八九条(物件の投下)に該当し、但し書きの規定により届出が必要です。

  報道取材飛行についてはどうでしょうか?

  1. 機体に関しては撮影と中継装置の修理改造が必要です。
  2. 運航に関しては「航空機使用事業」に該当します。

1-2 航空運送事業

 ヘリコプターがその特性を生かして行う代表的な(?)航空運送事業である物資輸送はどうでしょうか?

  1. 機体に関しては、吊り下げ装置の修理改造承認が必要で、X類の運航です。
  2. 運航に関しては、航空法第二条16項の「航空運送事業」に該当します。この運送事業か使用事業かの違いは私たちの運航に実に大きな影響があります。
  3. 離着陸に関しては、航空法第七九条(離着陸の場所)において、飛行場以外での離着陸は禁止され、但し書きに従って申請許可を受けた運航になります。
  4. 飛行に関しては、航空法第八一条(最低安全高度)規定により、但し書きに従って申請許可が必要になります。

 皆さんが興味を持っているEMS事業も航空運送事業です。ドクターヘリコプターと称して救急現場に急行して医療行為を行なうことが航空運送事業の枠に入ると、形に縛られてしまうおそれが出てきます。このあたりに関しては航空法八一条の2(捜索又は救助のための特例)が部分的に適用されていますがまだまだ充分ではありません。

 

1-3 キーワード

 キーワードは、法的な取扱いでは但し書き。ヘリコプターそのものに関しては(1)修理改造、(2)X類運航。ヘリコプター運航そのものが航空法や航空機メーカーの方々に想定外の事柄が多く、これらに対する柔軟な対応が行政当局、そして航空機メーカーに対する要望となってきています。

 但し書きの運航が多いという事は航空法や省令の想定した運航をしていないという事になるのではないでしょうか。もともと諸規則で縛りにくいヘリコプターの運航です、私たちの不満の多くは、ヘリコプターの性能向上が目覚しいのに関わらず、なかなか変わらない規則と規制にあります。

 なぜ、建設作業支援工事が航空運送事業なのでしょうか? 告示された飛行場におけるT類の飛行機を使って行なわれる運航と同じ格付けで、それらと同様の基準を求められることは過剰な規制ではないでしょうか。

2.運航規程審査要領について

 運航規程審査要領(空航第58号平成12年1月28日)及びその細則(空航第78号平成12年1月28日)は航空局が定めるもので、航空法第104条第1項に基づき本邦航空運送事業者が認可申請したとき技術上の基準への適合性を審査するためのものです。つまりこの要領に合致するようにそれぞれの会社は運航規程を定めます。基準内容が私たちから見て時代背景に合わなかったり、合理的な根拠を持たない場合、運航に与える影響が極めて大きくなります。

 

2-1 回転翼航空機の運航重量

 回転翼航空機の運航重量は「その時の大気状態に応じた地面効果外ホバリング重量の95%以下であること。」とされています。

 なぜ95%以下なのか?
 なぜ地面効果外なのか?

 レシプロエンジンの時代から同じ基準です。95%の重量制限の撤廃要望に関して、答えは「最近のヘリの性能・構造等を踏まえた合理的な説明がなされるのであれば、一律的な規制を改めることはやぶさかでは無い」です。

<計算例:代表的な中型双発ヘリコプター>

 自重は7,752lbs、外気温度25℃ 気圧高度3,000ftでIGEは11,750lbs、OGEは11,500lbsです。OGE11,500lbsの95%は10,925lbs、100%ならば乗員を含めた搭載量は3,748lbs(1,700kg)ですが3,173lbs(1,440kg)で、搭載量は260kg15%も減。
 次に、地面効果の期待できる場所の場合ホバリング重量は11,750lbsの95%は11,163lbs、搭載量は3,410lbs(1,550kg)になるが、1,440kgに抑えられる。更に7%も減(合計では22%)。

2-2 飛行計画  

 運航規程審査要領では「路線を定めて旅客の輸送を行なう回転翼航空機に適用する飛行計画は、有視界飛行方式に限る」となっています。路線を定めた計器飛行方式による定期的な旅客の輸送を企画したとき大きな障害になるでしょう。

「ヘリコプターの計器飛行方式による飛行のための実施諸問題に係る調査検討委員会」の活動成果に期待しています。

 

2-3 乗務要件

 機長の乗務要件に「当該型式機又は当該型式機と同等な型式機により60日以内に5時間以上の操縦の経験を有すること」とされています。

 

2-4 最近の飛行の経験

 省令(最近の飛行の経験)第百五十八条で既に、「さかのぼって90日までの間に、当該航空運送事業の用に供する航空機と同じ型式の航空機に乗り組んで離陸及び着陸をそれぞれ3回以上行なった経験を有しなければならない」という規定があります。

 

2-5 要領と省令

 ヘリコプターの運送事業の平均的な片道の時間は2分程度です。3回ならば6分で省令を満足するにもかかわらず、7.5時間の経験。75倍の規制(60日間5時間を90日に換算すると)。

 ヘリコプターの定期人員輸送を片道30分と想定した場合でも、省令の回数を満足させるには90日で3回ですから1.5時間。この場合でも5倍の規制。この規定は7.5時間に3回程度の着陸をする航空機の運航の規定を、ヘリコプターに当てはめただけではないでしょうか。

 

2-6 省令(計器経験)

 計器飛行を行なう航空機乗組員に求められる180日間6時間以上の計器飛行を行なった経験も、飛行機の運航を想定したものと言えるのではないでしょうか。

3.乗員養成

 最も積極的だったのは農林水産省でした。昭和37年自衛隊に委託された民間操縦学生は昭和38年に第一期生として陸上自衛隊のヘリコプター課程を卒業。平成元年にこの委託事業が終了するまでの卒業生は235人に及び、卒業生は現在ヘリコプター業界の中核として活躍しています。

 自衛隊への委託終了後は、航空大学校の別科(後に回転翼航空機科)として乗員養成が続けられてきましたが、平成13年1月の卒業生を最後に日本における民間操縦士を養成する公的機関は消滅しました。ヘリコプターを作っても乗員がいないと飛べません。

 訓練場の問題は私たち零細な事業者にとって死活問題です。民間ヘリコプターが離着陸訓練のできる公共の飛行場及びヘリポートは離島を含めても殆ど例がありません。飛行場やヘリポートを設置管理する方々も、「訓練はどこかでやってきて、ここでは安全運航だけをお願いします」というのは如何なものでしょうか。

 質の高い乗員を確保し、その質を維持するために訓練は欠かせません。

U.求められる新型ヘリコプター

1.安くて良いものは国境を越えて

 安くて良いものは国境を越えて買います。国産であるという事は選定の重要な要素にはなりません。今までは英語の壁もあり、難解なマニュアルが日本語である事は大きなメリットでしたが、これからは英語の壁はありません。競争できる良い機体を作ってください、お願いします。

 

2.良い機体とはどんなヘリコプター?

 メーカーの意図とは違う使われ方をするのがヘリコプターです。設計には多様な修理改造に耐えられるだけの構造的・空力的な余裕と柔軟性が必要です。ヘリコプターは作りっぱなしでなく、次から次へと湧き上がる運航のアイデアに応じた改造の相談に乗ってもらえないと私たちには使えません。

 如何に優秀な自動操縦装置や気象レーダー、先進の航法機器を備えていても、使われ方はトラックでした。トラックとして優秀であるためには1時間に30回近くの離着陸に耐えうる頑丈さが必要です。高圧送電線付近の作業では電磁干渉にも強くなければなりません。

 メーカーが設計に苦心を重ねたであろう広大な客室容量は、残念ながら私たちにとっては無駄にすぎません。本来の用途に使われているのは政府専用機だけかもしれません。

 ベル412は日本で最も多くの販売機数を誇る中型ヘリコプターです。ご承知のように、速度は遅く振動も多く乗り心地も良くありません。にもかかわらず何故売れているのでしょうか。操縦士/整備士の訓練体制でしょうか。確かにテキサス州に世界中のユーザーを訓練する施設を持ち、安全な運航に向けた取り組みは最も評価できると思います。さらに日本での販売を担当する商社は、顧客の要望をメーカーに伝え、メーカーもヘリコプターを改善する努力を怠りません。しかし最も評価されたのはマーケットを知り尽くした設計ではないでしょうか。

 

3.EMS

 以前ヘリコプターを開発しようとする方とお話する機会がありました。EMSに使いたいというので、ストレッチャーは入りますかとお聞きしたところそのサイズをご存知ありませんでした。承認を受けた医療機器を搭載する時にはそれらの重量、大きさ、必要とする電圧電流等を知っていてもらわなくてはなりません。

 さらに作動させた時の電磁干渉には充分な配慮を使って設計してもらわなければなりません。EMSに使用するということは救急車になるということです。

 EMSを用途のひとつとして開発するなら、欧米のEMSキットの専門家やお医者さんと話を進めておいていただかないと、修理改造の段階で大変面倒な事になります。お医者さんばかりでなく看護師の方々の、実際の作業の仕方を研究しないとスペースの有効活用はできません。

4.報道取材機

 日本では報道に使われている単発タービンヘリコプターが更新時期を迎え、有力候補としてこれらの機種がしのぎを削っています。

 商社の方は、スピードが速い、操縦性が良い、振動がまく乗り心地が良い、などと宣伝します。ここで安全性の宣伝は当たり前すぎるので省略します。

 でも私たちはこう考えます。スピードについては、どうせ改造だらけで空気抵抗も増えるんだから普通のスピードで良いです。操縦性も、機体は操縦桿を右に傾けりゃ右に傾き、左足を踏めば左を向く、普通の操縦性で良いです。

 振動は、防振カメラが優秀なので普通の振動なら良いです。乗り心地は、乗員もカメラマンも作業員ですから多少悪くても我慢、普通で良いです。

 と、こうなってしまいますから、結局この種の機種選定は、搭載可能重量と容積が決め手です。メーカーと商社の方々の努力はどうなるの?

 

5.運航経験の豊富な良き開発パートナー

 運航安全ばかりでなく訓練での安全性ということも忘れないでください。訓練における安全性の確保は新型機種に求められる要件のひとつです。本来新型機の開発と同時にシミュレーターを作っていただきたいのですが、現状は実機を使った訓練が殆どです。多発機では一発動機又は一系統を不具合にした訓練が欠かせません、このような訓練において機体にトラブルを起こしてしまう事例が多数あります。

 飛ぶのは当たり前、より効率の良い安全な訓練ができる機体をお願いします。実機をシュミレーターにするというのも一つの考えではないでしょうか?

 従事する操縦士の経歴によって違う能力を見逃さないように注意してください。タービン機ばかりの経験の方は、スロットルの操作を間違う可能性があります。(タービン機はスロットルを操作しなくても回転が変化しないようにガバナーがついていますが、マニュアル操作が必要になったときスロットルの経験を持たない操縦士は能力を発揮できません)

 テストパイロットと実際に運航するパイロットで経歴が違う場合、常識も違ってきます。標準的な技量はいつも変化します。

 

6.騒音

 運航上の騒音について、ヘリコプターはうるさいと言われます。他の交通機関の発する騒音に較べてそんなに特別うるさいものとは思っておりません、ただ与えられた仕事は地上の方々に迷惑かもしれません。報道取材では何機ものヘリコプターが、最低安全高度ぎりぎりの高度を長時間にわたり旋回し続けます。このような運航は誰が見てもうるさいと思います。ヘリコプターの活躍の場が悪かったのかもしれません。

 今後人員輸送を行なうようになったときには、運航の仕方の違いを明確にし、住民の方々にも取材のヘリコプターとは飛び方が違うことをお知らせしなければなりません。

 

7.低騒音進入

 一般的に降下角を一定にした進入方法が多用されており、障害物が多いときは高角度で、障害物が少ないときは低角度で進入しています。スラップ音の発生するエリアを避けて飛行すれば進入時の騒音問題の解消につながります。

 低騒音型の方法は平成6年に出された「ヘリコプター運航における課題」(航空振興財団)で提案されていますが、残念ながら実用しているとの情報は得ていません。進入速度と降下率を精密にコントロールするためには、GPSの補助が欠かせません。

(2003年3月13日第24回定例研究会にて講演)

<補足:その後の規制緩和>

 航空局の御高配により最新の運航規程審査要領細則(平成15年3月17日一部改正)で多くの項目が改善されています、その一部を御紹介します。

  1. 回転翼航空機の運航重量は、その時の大気状態に応じた地面効果外ホバリング重量の95%以下であること――削除
  2. 路線を定めて旅客の輸送を行なう回転翼航空機に適用する飛行計画は、有視界飛行方式に限る――削除(IFRでも可能になった)
  3. 機長の乗務要件、当該型式機又は当該型式機と同等な型式機により60日以内に5時間以上の操縦の経験を有すること――削除(基本的に航空法施行規則の要件を満たせば良い)
  4. 航空機乗組員の乗務割、連続する7日間の内1暦日以上の休養――路線を定めた運航に限定


(夜明けは近い)

(AHSJapan、2003.7.24)